も角《かく》も満点を取って帰ったと見えて、明日《あす》の試験に出ろという通知が夕方下宿に届いた。
 ところで翌《あく》る朝、勢い込んで試験場に来てみると驚いたね。七十何人居た受験者が、タッタ二人しきゃ居ないんだ。何かの間違いじゃないか知らんと思って一寸《ちょっと》キョロキョロしたもんだよ。ナアニ。みんな振り落されたのさ。ホントウの満点試験だからね。綴字《スペル》が一字違っていてもペケなんだから凄いよ。七十何人、試験料丸取られさ。これがお上《かみ》の仕事でなけあ、金箔付きのパクリだろう。
 僕と一緒に居残った奴は、島根県の何とかいう三十ばかりの鬚男《ひげおとこ》だったが、広い教室のズット向うとこっちに離れて製図を遣るんだ。……お互に顔を見交《みかわ》して泣き笑いみたいな顔をし合ったっけ。…ところが翌る日行ってみると、今度はそいつがノックアウトされている。つまり一番年の若い僕だけがタッタ一人残った訳だが、心細いの何のってお話にならない。冥途《あのよ》の入口に一人ポッチで来たような気もちだ。しかし試験官は、それでも遠慮なんかミジンもしない。一匹もパスさせなくたって構わないんだから平気なもんさ
前へ 次へ
全46ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング