ツカルんだ。考えてみるとサッキ満点を宣告した時には、ただ御苦労と云っただけで、お芽出度《めでと》うとは吐《ぬ》かさなかった。チョックラ油断させておいて、不意打ちにタタキ落そうという寸法なんだ。こんなタチの悪い試験に引っかかった事があるかね……恐らく無いだろう。
 そう気が付いた刹那《せつな》に僕はモウ一度気が遠くなりかけたね。そいつを我慢すべく熱い茶を一杯グッと嚥《の》み込むと、破れカブレの糞度胸《くそどきょう》を据えたもんだ。
「そうですねえ。六十|噸《トン》も這入りますかね」
 と冗談みたいに返事してやったら、試験官|奴《め》、眼を丸くしやがって、
「ヘエ。そんなに這入りますかね」
 と吐《ぬ》かしやがった。おまけに附け加えて、
「室《へや》の容積というものは見損ない易いものでね。誰でも初めて船に乗って、石炭を積むとなると、この見込みが巧く行かないので、下級船員から馬鹿にされる事になるのですが……ハハン……」
 と腮《あご》を撫でおった。……ナアニ。親切でソンナ事を云うもんか。ドギマギさせようという策略に違いないんだ。……ヘエ。それじゃ五十|噸《トン》ぐらいですか……とか何とか、お
前へ 次へ
全46ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング