通りの手続きにしてですか」
「さようです」
「何で自殺したんですか」
「モルフィンの皮下注射で死んでおりました。何処《どこ》で手に入れたものか知りませんが……」
 ここで相手は探るように私の顔を見ましたが、私は依然として無表情な強直を続けておりました。
 曼陀羅院長の眼の光が柔らぎました。こころもち歪《ゆが》んだ唇が軽く動き出しました。
「先月……十一月の二十一日の事です。姫草さんはかなり重い子宮内膜炎で私のところへ入院しましたが、そのうちに外で感染して来たらしいジフテリをやりましてね。それがヤット治癒《なお》りかけたと思いますと……」
「耳鼻科医《せんもんい》に診《み》せられたのですか」
「いや。ジフテリ程度の注射なら耳鼻科医《せんもん》でなくとも院内《うち》で遣《や》っております」
「成る程……」
「それがヤット治癒りかけたと思いますと、今月の三日の晩、十二時の最後の検温後に、自分でモヒを注射したらしいのです。四日の……さよう……一昨々日の朝はシーツの中で冷たくなっているのを看護婦が発見したのですが……」
「付添人も何もいなかったのですか」
「本人が要《い》らないと申しましたので…
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