…」
「いかにも……」
「キチンと綺麗にお化粧をして、頬紅や口紅をさしておりましたので、強直屍体とは思われないくらいでしたが……生きている時のように微笑を含んでおりましてね。実に無残な気持がしましたよ。この遺書《かきおき》は枕の下にあったのですが……」
「検屍はお受けになりましたか」
「いいえ」
「どうしてですか。医師法|違反《いはん》になりはしませんか」
相手は静かに私の瞳を凝視した。いかにも悪党らしい冷やかな笑い方をした。
「検屍を受けたらこのお手紙の内容が表沙汰になる虞《おそれ》がありますからね。同業者の好誼《よしみ》というものがありますからね」
「成る程。ありがとう。してみると貴下《あなた》はユリ子の言葉を信じておられるのですね」
「あれ程の容色《きりょう》を持った女が無意味に死ぬものとは思われません。余程の事がなくては……」
「つまりその白鷹という人物と、僕とが、二人がかりで姫草ユリ子を玩具《おもちゃ》にして、アトを無情に突き離して自殺させたと信じておられるのですね……貴下は……」
「……ええ……さような事実の有無《うむ》を、お尋ねに来たんですがね。事を荒立てたくないと思い
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