……そうだ。白鷹氏は故意《わざ》と、あんなに冷厳な態度を執《と》って後輩の田舎者である俺を欺弄《かつ》いでおられるかも知れない。アトで大いに笑おうと言う心算《つもり》なのかも知れない。東京の庚戌会に出席して斯界《しかい》のチャキチャキの連中と交際し、連絡《わたり》を付けるのは地方開業医の名誉であり、且、大きな得策でもあり得るのだから、その意味に於て優越な立場にいる白鷹氏は、キット俺が出席するのを見越して、アンナ風に性格をカムフラージしていろいろな悪戯《いたずら》をしておられるのかも知れない。
 ……そうだそうだ。その方が可能性のある説明だ。それがマンマと首尾よく図に当ったので、あんなに皆して笑ったのかも知れない。 
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 ……と……そんな事まで考えるようになったが、これは私が元来そう言った悪戯が大好きで、懲役に行かない程度の前科者であったところから、自分に引き較べて推量した事実に過ぎなかったであろう。同時にそこには姫草ユリ子から植え付けられた白鷹氏の性格に関する先入観念が、大きく影響していた事も自覚されるのであるが、とにもかくにも事実、そんな風にでも考えを付けて気
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