ットモット詳しく知っているらしい口吻《くちぶり》であったのに……もう一度白鷹氏と会えるかどうか、わからなかったのに……と気が付いたのであった。
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……いずれにしても白鷹氏と姫草ユリ子とが全然、無関係でない事は確実《たしか》だ。私の知っている以外に姫草ユリ子は白鷹氏に就いて何事かを知り、白鷹氏も姫草ユリ子に就いては何事かを知っているはずなのに……。
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そう考えて来るうちに、私の頭の中にまたもかの丸の内倶楽部の広間《ホール》を渦巻く、燃え上るようなパソ・ドブルのマーチが漂い始めた。
私はまたも彼女を信用する気になって来た。私は彼女がコンナにまで深刻な、根気強い虚構《うそ》を作って、私たちを陥れる必要が何処に在るのかイクラ考えても発見出来なかった。それよりも事によると私は、姫草ユリ子に一杯喰わされる前に、白鷹氏に一杯かつがれているのかも知れない……と気が付いたのであった。第一、この間、電話で聞いた白鷹氏の朗らかな音調と、今日会った白鷹氏のシャ嗄《が》れた、沈んだ声とは感じが全然違っていた事を思い出したのであった。
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