ような音楽のリズムに合わせて、不可思議な円型の虹のように、ゆるやかに躍り上り躍り上りホール一面に渦を巻いている。桃色と水色の明るい光線の中に……と思ううちに扉がピッタリと閉じられた。
 扉が閉じられると間もなくレコードの音《ね》が止んだ。それに連れて舞踏のザワメキが中絶して、シインとなったと思う間もなく、タッタ今閉まった扉が向側から開かれて、赤白ダンダラの三角の紙帽を冠ったタキシードが五、六人ドヤドヤと雪崩《なだ》れ込んで来て、私の眼の前の長椅子に重なり合って倒れかかった。襟飾《ネクタイ》の歪んだの……カフスのズッコケたの……鼻の横に薄赤い、わざとらしい口紅《ミスプリント》の在るもの……皆グデングデンに酔っ払っているらしく、私には眼もくれずに、長椅子の上に重なり合って、お互いに手足を投げかけ合った。
「ああ……酔っ払ったぞ。おい……酔っ払ったぞ俺あ……」
「ああ、愉快だなあ……素敵だなあ、今夜は……」
「ウン。素敵だ……白鷹幹事の手腕恐るベしだ。素敵だ、素敵だ……ウン素敵だよ」
「驚いたなあ。ダンス・ホールを三つも総上げにするなんて……白鷹君でなくちゃ出来ない芸当だぜ」
「……白鷹君バ
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