が、なかなかどうしてエライ景気だわい。会費の十円の意味も読めるし、幹事の白鷹君の隅に置けない手腕のほども窺われる。こんな事なら鹿爪らしいフロック・コートなんか着て来るんじゃなかった……と思ううちに待合室みたような部屋へ案内された。見ると周囲《まわり》の壁から卓子《テーブル》の上、椅子、長椅子、小卓子《サイドテーブル》の上までも帽子と外套の堆積[#「堆積」は底本では「推積」]で一パイである。かれこれ五、六十人分はあるだろう。大会だけによく集まったものだ。
「ここでちょっとお待ちを願います。今お呼びして参りますから……」
 といううちに給仕は右手の扉《ドア》を押して会場に入った。トタンにジャズの音響が急に大きく高まって、会場の内部がチラリと見えたが、その盛況を見ると私はアット驚いた。
 扉の向うは恐ろしく広いホールで、天井一面に五色の泡《あわ》みたようなものがユラユラと霞んでいるのは、会員の手から逃出した風船玉であった。その下を渦巻く男女は皆タキシード、振袖、背広、舞踏服なんどの五色七彩で、女という女、男という男の背中からそれぞれに幾個かの風船玉が吊り上っている。その風船玉の波が、盛り上る
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