ら今度こそは金輪際《こんりんざい》、ドンナ事があっても行くって仰言ったんですの。そうしたらまたきょうの騒ぎでしょう。あたし口惜《くや》しくて口惜しくて……」
「馬鹿、そんな事を口惜しがる奴があるか。何にしてもお気の毒な事だ。いい序《ついで》と言っちゃ悪いが、お見舞いに行って来て遣《や》ろう」
「まあ先生。今から直ぐに……?」
「うん。直ぐにでもいいが……」
「でも先生。アデノイドの新患者が三人も来ているんですよ」
「フーム。どうしてわかるんだい。鼻咽腔肥大《アデノイド》ってことが……」
「ホホ。あたし、ちょっと先生の真似をしてみたんですの。患者さんの訴えを聞いてから、口を開けさせてチョット鼻の奥の方へ指先を当ててみると直ぐに肥大《アデノイド》が指に触るんですもの」
「馬鹿……余計な真似をするんじゃない」
「……でも患者さんが手術の事を心配してアンマリくどくど聞くもんですから……そうしたら三人目の一番小ちゃい子供の肥大《アデノイド》に指が触ったと思ったら突然《いきなり》、喰付かれたんですの……コンナニ……」
 と付根の処を繃帯した左手の中指を出して見せた。
「……見ろ。これからソンナ出裟
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