、ええ。手術にかけたらトテモお上手っていう評判ですわ。妾、こちらへ参りますまで先生にドレくらい可愛がられたかわかりません。奥様からも、それはそれは真実の娘のようにして頂きましてね。今にキット良い処へ嫁付《かたづ》けて遣るって仰言って、着物なんか幾つも頂戴《いただ》いて参りましたの。今、平常《ふだん》に着ておりますのも奥さんのお若い時のを、派手になったからって下すったのですわ」
 私はスッカリ彼女の話に引っぱり込まれてしまった。蔭ながら白鷹先生に敬意を表すべく両手を揉《も》み合わせたものであった。
「なあんだ。白鷹先生なら僕の大先輩だよ。九大にいる時分に御指導を受けたんだから、もしかすると僕の事を御存じかも知れない。いい事を聞いた。そのうちに是非一度、お眼にかかりたいもんだが……」
「ええ、ええ。そりゃあ必定《きっと》、お喜びになりますわ。先生の事も二、三度お話の中に出て来たように思いますわ。臼杵君はトテモ面白い学生だったって、そう仰言ってね」
「ふうん。僕は茶目だったからなあ。お宅はどこだい」
「下六番町の十二番地。奥さんはトテモ上品でお綺麗な、九条武子様みたいな方ですわ。久美子さんと
前へ 次へ
全225ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング