仰言ってね。先生をトテモ大切になさるんですよ。仲がよくってね……」
「アハハハ。何でもいいから、そのうちに……きょうでもいいから一度、君から電話かけといてくれないかね。臼杵がお眼にかかりたがっているって……」
「……まあ。妾なんかが御紹介しちゃ失礼じゃございません……?」
「なあに構うものか。白鷹先生なら、そんな気取った方じゃないんだよ」
 そう言って私は姫草ユリ子に頭を一つ下げた。
 彼女は、そう言う私の顔をすこし近眼じみた可愛い瞳《ひとみ》でチョット見上げていたが、何故か多少、悄気《しょげ》たように俛首《うなだ》れて軽いタメ息を一つした。聊《いささ》か怨《うら》めしそうな態度にも見えたが、しかし私はソレを彼女独特の無邪気な媚態《びたい》の一種と解釈していたので格別不思議に思わなかった。
「……でも妾……看護婦|風情《ふぜい》の妾が……あんまり失礼……」
「ナアニ。構うもんか。看護婦が紹介したって先生は先生同士じゃないか。白鷹先生はソンナ事に見識を取る人じゃなかったぜ」
「ええ。そりゃあ今だって、そうですけど……」
「そんなら、いいじゃないか……僕が会いたくて仕様《しよう》がないんだ
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