なんかは、患者が笑うと頭が動いて、トテモ危険なんですけど、白鷹先生の手術はステキに早いもんですから、患者が痛いなんて感ずる間もなく、笑い続けておりましたわ。そんなところまで臼杵先生のなさり方とソックリでしたわ」
 なぞとユリ子は、あとで言訳らしく説明するのであったが、こうした最大級の真に迫ったオベッカが私のプライドを満足させた事は言う迄もない。もちろんこれは彼女が、彼女の実家の裕福な事を証明して、彼女の暗い、醜い前身を隠そう。同時に彼女の儚《はか》ない空想を現実に満足させようとしたのと同じ心理から出た作り事で、彼女がK大耳鼻科、助教授の要職にいる人から如何に信頼を受けておったかと言う事を、具体的に証明したいばっかりの一片の虚構に過ぎなかったのであったが、しかしその時の私が、どうしてソンナ事に気付き得よう。かねてから母校の先輩として尊敬していた白鷹先生の名前を久し振りに聞いた私は、喜びの余り眼を丸くして彼女に問いかけたのであった。
「ホオ。それじゃ白鷹先生は今でもK大におられるのかい。チットモ知らなかった」
 彼女は平気で……否……むしろ得意そうに白鷹先生の話に深入りして行った。
「ええ
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