て見違えるような美少女となって、病院の廊下を飛びまわる事になった。決して自家広告をする訳ではないが、私は彼女に施した隆鼻術の効果の予想外なのに驚いたものであった。手術をして遣《や》った翌る朝、薄化粧をして「お早ようございます」と言った彼女の笑顔を見た瞬間に……これは大変な事をした。とんでもない美人にしてしまった……と肝を潰したくらいであった。
 しかし彼女に対する私達の驚異は、まだまだそれくらいの事では済まなかった。
 彼女の看護婦としての腕前は申し分ないどころの騒ぎではなかった。K大耳鼻科のお仕込みもさる事ながら、彼女は実に天才的の看護婦である事を発見させられて、衷心《ちゅうしん》から舌を巻かされたのであった。
 彼女が私の病院に来てから間もなく私がある中年紳士の上顎竇《じょうがくとう》蓄膿症の手術をした時に、初めて助手を命ぜられた彼女は、忙しく動いている私の指の間から、麻酔患者の切り開かれた上唇の間に脱脂綿をスイスイと差し込んで、溢《あふ》れ流れる血液を拭き上げて、切開部をいつも私の眼によく見えるようにして行った。その鮮やかな、狃《な》れ切った手付を見た時に私はゾッとするぐらい感心
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