くらい姉と妻は彼女に対して乗気になっていたらしい。
そればかりじゃない。なおその上にモウ一つ。これは私の職業意識とでも言おうか。私が彼女を見た時に、第一に眼に付いたのは彼女の鼻梁《はなすじ》であった。
彼女は決して美人という顔立ではなかった。眼鼻立はドチラかと言えば十人並程度で、色も相当に白かったが、背丈が普通よりも低く五尺チョットぐらいであったろう。同時にその丸い顔の中心に当る小鼻が如何《いか》にも低くて、眼と鼻の間の遠い感じをあらわしていたが、それだけに彼女が人の好い、無邪気な性格に見えていた事は争われない。
私はそうした彼女の顔立をタッタ一目見た瞬間に、彼女の小鼻に隆鼻術をやって見たくなったのであった。これくらいのパラフィンをあそこに注射すれば、これくらいの鼻にはなる。彼女の小鼻は鼻骨と密着していない、きわめて手術のし易いタチの小鼻であると思った。こうした一種の職業意識から来た愚かな魅惑が、彼女を雇い入れる決心をした私の心理の底に動いていた事も否定出来ない事実であった。
こうした私の目的は間もなく立派に達成された。彼女は私の病院に雇われてから一週間と経たぬうちに俄然とし
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