多分何かの御用事で職員室へ来ておられた校長先生が私の姿をお見付けになって、先まわりをなすって弓術道場の板塀の蔭から来られたのではないか知らん……なぞと混乱した頭で考えた事でした。もともとお人好の私は、あんなような場合でも、出来るだけ校長先生のなさる事を善意に解釈しようしようと本能的に努力していたのでしょう、そんなような先生のお言葉にもさほどの不自然さを感じませんでしたばかりでなく、何よりも先に校長先生がこんな思いがけない非常識な事をなさるのはよくよくの事だろうと気が付きますと、私の持前の気弱さからどうしても逆《さか》らってはいけないような気持になりながら、暗黒の中で両腕を握られたまま、固くなって俛首《うなだ》れておりました。
 ああ……意気地のない私……私はあの時にチョットでも声を立てたりすると、世間の名高い校長先生の御名誉と地位の一切合財をすっかりめちゃめちゃにして終《しま》うであろう恐ろしさに包まれて、身動き一つ出来なくなっていたのでした。
 ……ああ……可哀そうな私……「お互いに淋しい心はわかっている」と仰言った校長先生のお言葉に私は、われにもあらず打たれてしまったのでした。どう
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