夕暗の中を、あの廃屋に近付いたのです。そうしてあの階下の土間の暗闇の中に、そっと片足を入れたのです。
その暗闇の中から突然に出て来た毛ムクジャラの男の両腕に、私はシッカリと抱締められて終《しま》ったのでした。そうして思いもかけない切ない愛の言葉を、生まれて初めて囁《ささや》かれたのでした。
「……よく来て下さいました。ありがとう御座います。ほんとによく来て下さいました。この独身者《ひとりもの》の憐れな年寄の悩みを救って下さるのは貴女《あなた》お一人です。貴女なしには私は生きて行けなくなったのです。どうぞこの独身者の淋しい教育家を憐れんで下さい……ね……ね。お互いにタッタ一人の淋しい気持は、わかり合っておるのですから……ね……ね……ね……」
そのお声が……そのお言葉が……たしかに校長先生のソレとわかりました時の、私の驚きはドンナでしたろう。
私の全身が、心臓の動悸と一緒に石になってしまったようでした。
……どうして私がここに来ることを御存じでしたろう……とその刹那《せつな》に思うことは思いましたが、考えてみますと職員室の一番左の窓から裏門が透かして見える事を思い出しましたから、
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