の不可思議な少女、姫草ユリ子の怪手腕に魅せられて脳髄を麻痺させられていたせいかも知れませぬが……。
何よりも先に明らかに致して置きたいのは彼女……姫草ユリ子と自称する可憐の一少女が、昨春三月頃の東都の新聞という新聞にデカデカと書き立てられました特号|標題《みだし》の「謎の女」に相違ない事です。この事実は本日面会しました前記の司法当局者に、私から説明しましたので、同氏が「容易ならぬ事件」と認めて、即刻、警視庁に移牒したという理由もそこに在る事と察しられるのですが、その新聞記事によりますと(御記憶かも知れませんが)彼女は、その情夫? との密会所を警察に発見されたくないという考えから、その密会所付近の警察に自動電話をかけたものだそうです。
「妾は只今××の××という家に誘拐、監禁されている無垢《むく》の少女です。只今、魔の手が妾の方へ伸びかかっておりますが、僅かの隙間《すき》を見て電話をかけてるのです。助けて下さい、助けて下さい」
と言う意味の、真に迫った、息絶え絶えの声を送って、当局の自動車をとんでもない遠方の方角違いへ逐《お》い遣ってしまったのです。彼女はかようにして、それから度々
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