警察を騒がせましたので結局、同じ女だと言う事がわかって、極度に当局を憤慨させ、新聞記者を喜ばせた……というのが事実の真相です。
その無鉄砲とも無茶苦茶とも形容の出来ない一種の虚構《うそ》の天才である彼女が、貴下の御|懸念《けねん》になっている彼女であり、ツイこの間まで白い服を着て小生の病院内を飛び廻っておりました彼女だったことを、現在、彼女の身元引受人であった者がハッキリと主張しているのです。そうしてその主張している理由は彼女の心理状態から押して真実と認められるので、現に警察当局でもそうした主張の真実性を厘毫《りごう》も疑っていない次第です。
それにしても渺《びょう》たる一少女に過ぎない彼女が、あらゆる通信、交通機関の横溢《おういつ》している今の世の中に、しかも眼と鼻の間とも言うべき東京と横浜に在る貴下と私の一家を、かくも長い間、お互いに怪しみ、探り合わせながら、どうしてもめぐり合う事が出来ないと言う不可思議な、気味の悪い運命に陥《おとしい》れて行くと同時に、彼女自身の運命までも葬らなければならぬほどの深刻な窮地に陥れて行くべく余儀なくされた、そのソモソモの動機は何処に在るのでしょ
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