るためには、時計仕掛ではあぶない。途中で怪しまれてイギリスの軍艦に引き上げられでもしたら日本製の火薬だということがジキにわかってしまう……とても危ない……何にもならないというので吾々が勝手に計画を立て換えたのです」
「わたくしみたいな女風情が、横から何と申しても仕様のない事かも知れませんけど、それではアンマリ……生命をお粗末に……」
「まあお聞き下さい。そんな訳ですから日本を出る時には外務省の保証を持っているんですから、何を持って行ったって鞄を検査される心配はないんですが、ただスエズに着いてからアトに生き残る五、六人の奴が、それだけじゃ詰まらないと、東京に出る間際になっていい出したんです。序《ついで》のことにスエズ運河の堰堤《えんてい》を毀《や》ってしまおうじゃないか。そうしたら何ぼ英国だって堪忍袋《かんにんぶくろ》の緒を切るに違いないだろうということになったんですが、生憎《あいにく》、その爆薬だけが足りないので、こうして汽車で先まわりをして御無理をお願いに伺ったんです」
 青年はいつの間にか雄弁になっていた。その言葉つきは青年らしい意気込に満たされ、その眼は少年のように輝き、その頬は
前へ 次へ
全28ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング