ている四ツの顔が皆、白い歯を現わして冷笑しているのを見ると、たちまち眼を釣り上げ、歯を喰い締めて今一度、心の底から唸った。
「ウウムムム。しまったッ……」
「ハハハ。△産党の九州執行委員長、維倉《いくら》門太郎。やっと気づいたか。馬鹿野郎……アッ、新張の奥さん……どうもありがとう御座いました」
 そういってペコペコ頭を下げながら前に進み出たのは、四人の中でも一番|年層《としかさ》らしい、色の黒い、逞《たくま》しい鬚男であった。
「キット貴女《あなた》の処に行くだろうと思ったのが図に当りましたね」
「ホホホ。お蔭様で助かりましたわ」
 媚めかしい声でそういいながら眉香子未亡人が静々と込《はい》って来た。僅かの間に櫛巻髪を束髪に直して、素晴らしい金紗の訪問着の孔雀《くじゃく》の裾模様を引ずりながら、丸々と縛られた維倉青年の前に突っ立った。眩しい刺繍の丸帯の前に束ねた、肉づきのいい両手の間から、巨大なダイヤの指環がギラギラと虹を吐いた。
「野郎……貴様らが上海《シャンハイ》の本部へ逃げ込む序《ついで》に門司から此地方《こちら》へ道草を喰いに入り込んだのを聞くと、直ぐに手配していたんだぞ。貴様
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