クリと拭い上げた。
「ホントニ……下さる……」
「ええ、ええ。差し上げると申しましたら、必ず差し上げますわ。わたくしも新張眉香子です……ですけど、貴方《あなた》ホントにエチオピアへいらっしゃるおつもり?」
「エッ……何故ですか」
「何故ってホントにいらっしゃるおつもりなら差し上げますわ。何でもない事ですから……イクラでも……わたくしモトからエチオピア贔屓《びいき》ですから。私が男子《おとこ》なら自分で行きたいくらいに思っているんですからね」
「……ホ……ホントに……行くのです」
青年の瞳が熱意に輝いた。
眉香子の眼も同じ程度の熱意を輝き返した。青んじた襟足でしなやかに一つうなずいて見せながら、椅子の中から乗り出した。
「お尋ねさして下さいましね。どうしてソンナ事をお思い立ちになったんですの? 貴方お一人?……お仲間は?……」
青年はギクンとしたらしいが、やがてまた、冷やかに笑ってみせた。やっと度胸がきまったらしく、ソッと溜息をした。
「むろん僕一人じゃありません。十二人ばかりの同志があります」
「まあ十二人……大変ですわねえ。そんなに大勢でエチオピアまでお出でが出来ますかしら。第
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