らのお召の丹前に櫛巻頭。白い素足と真紅のスリッパにゴチック式の豪華を極めた応接間をモノともせぬ勝気さを見せて、これも炭坑王の奢《おご》りを見せた真綿入|緞子《どんす》の肘掛椅子に、白い豊満な肉体を深々と埋めている。その睫《まつげ》の長い二重瞼の蔭から、黒い大きな瞳をジイッと据えて微笑された相手の青年は、その素晴らしい度胸と妖気に呑まれて恍惚《こうこつ》となってしまったらしい。
みすぼらしい茶の背広に、間に合わせらしい不調和な赤ネクタイを締めていながらも、それこそ新劇の二枚目かと思われる、生白い貴公子然たる眼鼻立の青年であったが、それが今更のようにビックリして純真らしい、茶色の瞳《め》を大きく見開き、薄い、小さな唇をポカンと開いた姿は、一層ういういしい子供らしい恰好に見えた。
「御承知して下さる」
と半ば言いさして、青年は唇を戦《おのの》かした。
「まあ……エチオピアへでも行こうと仰言るのに度胸が御座んせんねえ。失礼ですけど……ホホホホ」
青年は忽《たちま》ち颯《さっ》と赤くなった。そうしてまた急に青白くなって、房々した頭髪の下に隠れている白い額にニジンダ生汗《あせ》を、平手でジッ
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