です。ゾラか誰か言ったことがありますね。――科学者の最上の仕事は、強力な爆薬を発明して、この地球と名づくる石ころを粉砕するにあり。真実というものがドンナものかということを人類に知らしむるに在り――とか何とか……」
「まあ大変ね。ゾラはきっとインポテントだったのでしょう」
「ハハハハ。こいつは痛快だ。さすがは昔の銀幕スター、眉香子さんだけある。そういって来ると虚無主義者や共産主義者はみんなインポテントになるじゃないですか」
「そうよ。この世に興味を喪失《なく》してしまった人間の粕《かす》みたいな人間が、みんな主義者になるのよ」
「そんなことはない……」
「あるわ。論より証拠、貴方に死ぬのをイヤにならせて見せましょうか」
「ええ。どうぞ……」
「きっと……よござんすか」
「しかし……しかしそれは一時のことでしょうよ。明日になったら僕はまたキット死にたくなるんですよ。今までに何度も何度も体験しているんですからね。ハハハハ」
「ホホホホ。それは相手によりけりだわ。妾がお眼にかける夢は、そんな浅墓《あさはか》なもんじゃないわ。アトで怨んだって追つかない事よ」
「ワア。大変な自信ですね。しかしイク
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