す。なんでもいいから思い切って自分をぶっつけてガチャガチャになってしまいたいんです」
「アンタみたいな方は恋愛もなにも出来ないのね」
「恋愛……恋愛なんて……ハハハハ」
「マア。恋愛なんて……て仰言るの……あたしこれでもチャント貞操を守っている未亡人なのよ。まだネジが切れちまわないうちに相手をなくしちゃって、イヤでもこんな淋しい後家《ごけ》を守っていなくちゃならなくなった女なのよ」
「恋愛なんて……恋愛なんて……ハハハ。恋愛なんて何でもないじゃないですか。ほんの一時の欲望じゃないですか。永遠の愛なんてものは男と女とが都合によって……お互いに許し合いましょうね……といった口約束みたいなもんじゃないですか。お金のかからない遊蕩《ゆうとう》じゃないですか」
「まあ。ヒドイことをいうのね」
「当り前ですよ。この世の中はソンナ様な神秘めかした嘘言《うそ》ばっかりでみちみちているんですよ。だから何もかもブチ壊してみたくなるのです。何もない空《から》っぽの真実の世界に返してみたくなるのです」
「アンタ……それじゃ虚無主義者ね」
「そうですよ。虚無主義者でなくちゃ僕等みたいな思い切った仕事は出来ないん
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