書けない探偵小説
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)傲華《ごうか》な
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)金玉|燦然《さんぜん》たる王冠を
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素晴らしい探偵小説が書きたい。
ピカピカ光る太陽の下を傲華《ごうか》な流線スターがスウーと横切る。その中に色眼鏡をかけて済まし返っているスゴイような丸髷《まるまげ》美人の横顔が、ハッキリと網膜に焼付いたまま遠ざかる。アトからガソリンの臭いと、たまらない屍臭とがゴッチャになってムウとするほど鼻を撲《う》つ。
……ハテナ……今のは、お化粧をした死骸じゃなかったか知らん……。
と思うトタンに胸がドキンドキンとする。背中一面にゾーッと冷たくなる。ソンナ探偵小説が書きたい。
美人を絞殺して空屋《あきや》の天井に吊しておく。
その空屋の借手がないために、屍体がいつまでもいつまでも発見されないでいる。
タマラなくなった犯人が、素人探偵を装って屍体を発見する。警察に報告して、驚くべき明察を以て自分の犯行の経路を発《あば》く。結局、何月何日の何時何分頃、何ホテルの第何号室に投宿する何某と
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