いう男が真犯人だと警官に予告し、自分自身がその名前で、その時刻に、その室《へや》に泊る。その一室で警官に猛烈な抵抗を試みた揚句《あげく》、致命傷を受けて倒れる。万歳を三唱して死ぬ。ソンナ探偵小説が書きたい。
或る殺人狂の極悪犯人が、或る名探偵の存在を恐れて是非とも殺して終《しま》おうとする。
そうすると不思議にも、今まで恐怖という事を知らなかった名探偵が、極度にその極悪犯人を恐れるらしく、秘術を尽して逃げ惑うのを、犯人が又、それ以上の秘術を尽して逐《お》いまわる。とうとう大きな客船の上で、犯人が探偵を押え付けて、相抱いて海に投ずる。
二人の屍体を引上げて、色々と調べてみると、犯人は探偵の昔の恋人であった美人が、変装したものであった。……といったような筋はどうであろうか。
トロツキーが巴里《パリー》郊外の或る小さな池の縁で釣糸を垂れていた。嘗《かつ》て親友のレニンが、その池に投込んだというロマノフ家の王冠を探るためであった。
トロツキーは成功した。やがて池の底から金玉|燦然《さんぜん》たる王冠を釣上げてニコニコしていると、その背後《うしろ》の夕暗《ゆうやみ》にノッソリと立寄
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