《へ》ッポコ巡査に、看破《みやぶ》られるような心配はあるまい。又、町からドンナ名探偵が来ても、深良屋敷の恐ろしい秘密と、そこから起った自分の犯行の動機ばかりは、自分が口を割らない限り誰にも気づかれる筈はないとタカを括《くく》って、安心し切っていたものであったが、その草川巡査が、思いもかけない方向に自分を連れて行こうとしたので、何という事なしにドキンとさせられてしまった。思わず大きな声をかけたものであったが、あの時に自分でも不思議なくらいビックリしたお蔭で、自分の神経がドウカなってしまったものらしい。その草川巡査の取調べが全然予想と違った順序で、極めて、注意深く事件の核心に突込んで来るらしい事に気がつくと、もう恐ろしくて恐ろしくてたまらなくなって、飯を喰ってみてもナカナカ気持が落つかなかった。勝手口の引戸を調べられた時からしてモウ答弁がシドロモドロになって来たので、九分九厘まで運命と諦めてしまったものであった。中《なか》の間《ま》の杉戸の鍵に注意を向けられたり、老母の枕元の財布の位置まで観察されたりした時には、正直のところもうイケないと思った。取調の途中で何も知らない筈のマユミが無意味に
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