かった。モットモット大きい、恐ろしく深刻な事件の予感が、美青年、深良一知の声を聞いた一|刹那《せつな》から黒い嵐雲《らんうん》のように草川巡査の全神経に圧しかかって来たのであった。
深良屋敷の老夫婦が、非業な死に方をするに違いないという事は、ズット以前から村中の人々が一人残らず心の片隅で予感していたところであった。……今に見ろ。ロクな死に方をしないから……といって深良屋敷を呪咀《のろ》わない村の人間は恐らく今までに一人も居なかったであろうと思われるくらい深良屋敷は、村中の怨恨《うらみ》の焦点になっていたもので、その意味からいうと、この村の人々は一人残らず今度の事件の嫌疑者か共犯者と考えてもいい……といったような極端に神秘的な因縁が、今度の事件に絡《から》まっているのであった。それがこうして突然に実現されたのだから万一、村の人々にこの事が知れ渡ったら、皆、今更のようにハッと顔を見合わせて、お互い同志を疑い合うであろう。それと同時に草川巡査にとっては、想像も及ばない探査の困難な殺人事件……村民全部が嫌疑者……といったような極度の神秘的な深みを持った迷宮事件を押付けられたようなもので、ちょ
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