うど横綱と顔を合わせた褌担《ふんどしかつ》ぎみたような自分の力の微弱さを、今更のように思い知らずにはいられないのであった。
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……これが俺の失敗のタネになりはしないか……永い間の高文の試験準備で、疲れ切っている俺のアタマは、こうした現実の出来事に向かないくらい弱々しく、過敏になっているのではないか……。
……とにも角《かく》にも、どこまでも慎重に……慎重に取りかからねばならぬ……あくまでもヘマをやってはならぬ……。
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といったような、武者振いがまだ具体的に現われて来ない前のような神秘的な戦慄《せんりつ》に、草川巡査は襲われて仕様がないのであった。そうしてそのドキドキした予感を中心にして、深良屋敷の惨劇を裏書きしているらしい色々な過去の前兆が、眩《まぶ》しいくらい明るい、又はジメジメと薄暗い木立の中を押分けて行く草川巡査の、勉強に疲れた記憶力の中に、今更のようにマザマザと浮み上って来るのであった。
深良屋敷というのは村外《むらはず》れの国道から二三町北へ曲り込んだ、小高い丘の上の雑木林に囲まれた小さな一軒家であった。もっともズット以
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