せんでしたので……それに村民の評判がステキにいいものですから、出来る限り慎重に致したいと考えましたので……」
「成る程……」
「……そ……それにあの砥石の位置が、暗闇《やみ》の中で見えるか、見えないかが確かめて見とう御座いましたので……あの惨劇の晩は一片の雲も無い晴れ渡った暗夜《やみよ》で御座いましたが、その翌る晩から曇り空や雨天が続きまして、それが晴れると今度は月が出て来るような事で、まことに都合が悪う御座いました。それであの晩と同じような雲の無い暗夜《やみよ》が来るのを辛抱強く待っておりますうちに、やっと四五日前の晩に実験が出来ました。つまり台所の入口に立ちますと、あの砥石が井戸端の混凝土《タタキ》と一緒にハッキリと白く暗《やみ》の中に浮いて見える事がわかりました。もっとも、それはただ小さな白い、四角い平面に見えているだけで、砥石だか何だかわかりませんが、それを砥石と認め得る人間はあの家の者より他に無い筈です」
「いかにも……それは道理《もっとも》な観察ですが、しかし万一兇器としても単に柄《え》を嵌込《すげ》るだけの目的ならば、附近にシッカリした花崗岩《みかげいし》の敷石が沢山に在
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