」
「ですから、私のような偏屈者が警察に居りますと、何としても邪魔になりますらしいので、私が高等文官の試験準備を致しておりますのを良い事にして、田舎の方が勉強が出来るからと云って谷郷村へ逐《お》いやられてしまったのです」
「……成る程」
「……ですから今のような事実を説明しましても、上長に憎まれております私ですからナカナカ取上げてもらえまいと思いました。現に署長は、私が捜索を怠けておりますために、事件の眼鼻が附かないものと考えておられるようで、電話で度々お叱りを受けております。実際を御存じないものですから……」
「ふうむ。しかしそのような事実を、今日が今日まで私に黙っておられたのは何故ですか」
 鶴木検事の口調がダンダン裁判口調になって来た。草川巡査も、新しい西洋手拭《タオル》で汗を拭き拭きイヨイヨ吶弁になって来た。
「……その……今申しました犯人の性格をモット深く見究《みきわ》めたいと思いましたので……つまり犯人は都会の上流や、知識階級に多い変質的な個人主義者に違いないと思ったのです。もちろん最初の中《うち》は、そんなような感情や、理智の病的に深い人間が、あんな田舎に居ようとは思いま 
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