関係の無い、私の一身上のお話ですが……」
 と恐縮しいしい自分が谷郷村に赴任した理由を詳しく話し出した。
「そんな理由《わけ》で……私のような下級官吏の口から申上るのは僭越ですが、昔から田舎の都会に根を張っております政党関係の因縁の根強さは、到底、私どもの想像に及びません位で、それに……私は元来、極く田舎の貧乏寺の僧侶の子で御座いまして、父親の名跡《あと》を継ぐために、曹洞宗の大学を出るだけは出ました者ですが、現在の宗教界の裏面の腐敗堕落を見ますとイヤになってしまいまして、いっその事直接に実社会のために尽そうと考えて、檀家の人々が止めるのも聴かずに巡査を志願致しましたような偏屈者で御座いますから、そんな因縁の固まりみたような地方の警察署ではトテモ不愉快で仕事が出来ません。云う事、為す事が皆、上長の機嫌に触《さわ》りますので……もっとも只今では政党の関係は無くなりましたが、昔の有力者という者が残っておりまして、近づいて参ります選挙でも、警察の力を利用して、勝手な事をしてやろうと腕に捩《より》をかけて待っているような情勢《ありさま》であります」
「フムフム。それはモウよくわかっているが…… 
前へ 
次へ 
全71ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング