るのに、何故あんな暗い処に在る石を選んだものでしょうか。……それから今一つ、兇器の柄がシッカリ嵌《はま》っていない事を、犯人は最初から気附かずにいたものでしょうか。どうでしょうか。そのような点はドウ考えますか」
「それは……恐らく加害者が、兇行間際の緊張した気持から、新しい兇器の柄に不安を感じた結果、何かでシッカリと柄を打込むべく外へ出たものであろうと考えます。ところがあの小高い深良屋敷の台所に近い敷石の上を動く人影は、木《こ》の間《ま》隠れではありますが空を透《とお》しておりますために、雨天でない限りは、どんな暗夜《やみよ》でも下の国道から透《すか》して見え易い事を、用心深い犯人がよく知っていたに違いありませぬ。ですから軒下の暗闇づたいに近付いて行けるあの真暗い背戸の山梔木《くちなしのき》の樹蔭《こかげ》に在る砥石を選んだものではないかと考えます。あそこならば物音が、奥座敷へ聞えかねますから……」
「イヤ。よろしい。熱心にやって下すった事を感謝します。それでは今のお話のオナリ婆さんの変態的な性格についてですね……どんな風にオナリ婆さんが、一知夫婦を窘《いじ》めたかに就《つ》いてですね
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