の釘痕《くぎあと》を合わせて、スッポリと元の板戸の穴へ嵌込《はめこ》みながら、なおも微笑を深くした。
「馬鹿だよお前は……俺に謝罪《あやま》っても何もならんじゃないか。ええ。一軒の家《うち》の主人《あるじ》となったら……ことにコンナ一軒家の中で、年|老《と》った両親や、沢山のお金の運命を受持っている若い人間は、モウすこし戸締りや何かに気を付けんとイカンじゃないか。お蔭でコンナ間違いが出来たじゃないか……ええ?……」
一《ひ》と縮みになった一知は、一生懸命に気を取直そうとしているらしく、無言のまま何度も何度も襟元をつくろい直した。
「足跡も何も無かったんか。そこいらには……」
「……ハ……ハイ。ありま……せんでした。山の下から……この踏石を踏んで来たもの……かも知れません」
一知は先に立って表に出た。国道から曲り込んで、深良屋敷へ上って来る赤土道に、一尺置ぐらいに敷並べてある四角い花崗岩《みかげいし》の平石《ひらいし》を、わななく手で指した。草川巡査はうなずいた。腰を屈《かが》めて、その敷石の二つ三つを前後左右から透してみた。
「足跡も何も無い……ところでお前達は昨夜《ゆうべ》ドコに
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