の蔭に落ちておりました」
 その板戸の継ぎ嵌めだらけの板片《いたぎれ》を一つ一つに検めていた草川巡査は、
「よし。昨夜《ゆうべ》の通りに今一度、内側から締めてみい」
「ハイ……」
 一知が内側から戸を閉めて、掛金を掛けて、火箸をゴクゴクと挿込む音がした。すると草川巡査は、その継嵌《つぎはめ》の板片の中の一枚を外から何の苦もなくパックリと引離して、そこから片手を突込んで鉄火箸《ひばし》を引き抜いて、掛金を外《はず》した。その板片と火箸を両手に持ったまま引戸を静かに押開いて、ノッソリと土間へ這入って来ると、その土間の真中に突立っている一知の真青な顔を無言のままニコニコと見上げ見下した。
 一知の額には生汗がジットリと浮出していた。西洋の女のように白い唇をわななかして、今にも気絶しそうに眼をパチパチさせた。それを見ると草川巡査の微笑が一層深くなった。
「馬鹿だな。……この板を打付けた釘の周囲《まわり》が、スッかり腐っているじゃないか。これがわからなかったのか……今まで」
 一知は寝巻の袖で汗を押拭い押拭いペコペコと頭を下げた。
「……すみません……すみません……」
 草川巡査は手に持った板片
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