鉄砲に驚いていたが、その丹精が一知夫婦だけで立派に届いて、見事に実った麦が丘の下一面に黄色くなって来ると、最後まで冷笑していた牛九郎老夫婦も、流石《さすが》に吃驚《びっくり》したらしい。養子夫婦の親孝行のことを今更のように村中に吹聴してまわり始めた。一知の掌《てのひら》が僅かの間に石のように固くなっている事や、娘のマユミが一知と二人ならば疲れる事を知らずに働く事なぞを繰返し繰返し喋舌《しゃべ》って廻るので村の人々は相当に悩まされた。
ところが不思議な事に、そんな序《ついで》に話がラジオの事に移ると、何故かわからないが牛九郎夫婦は、あまり嬉しくない顔色を見せた。殊にそのラジオ嫌いの程度はオナリ婆さんの方が非道《ひど》いらしかった。
「まあ結構じゃ御座んせんか。毎晩毎晩何十円もする器械で面白いラジオを聞いて……」
なぞと挨拶にでも云う者が居るとオナリ婆さんは、きまり切って乱杙歯《らんぐいば》を剥出《むきだ》してイヤな笑い方をした。片足を敷居の外に出しながら、すこし勢込んで振返った。
「ヘヘヘ。あれがアンタ玉に疵《きず》ですたい。承知で貰うた婿じゃけに、今更、苦情は云われんけんど、タッタ
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