そく》をたった一本|灯《とも》して、そのまわりを、身体《からだ》中にお化粧して、その上から香油《においあぶら》をベトベトに塗った素《す》っ裸体《ぱだか》の男と女とが、髪毛《かみのけ》を振り乱したまま踊りめぐったりするんですとさあ。そうするとその蝋燭の光りの赤い色が、壁や、天井の色に吸い取られて、まるで燐火《おにび》のように生白く見えて来るにつれて、踊っている人達の身体の色がちょうど、地獄に堕ちた亡者《もうじゃ》を見るように、赤や、緑色や、紫色に光って見えて来るんですって。それと一緒に身体じゅうの皮膚がポッポと火熱《ほて》り出して、燃え上るような気持ちになって来るもんだから、その苦し紛れに相手をシッカリと掴まえようとすると……ホラ、油でヌラヌラしていてチットモ力が這入《はい》らないでしょう。そのうちに、死ぬ程苦しくなって、ヘトヘトに疲れて倒れてしまうんですってさあ……ねえ。ずいぶんステキじゃないの。……だけどまだ恐ろしい話があるのよ。
 ……エ……もう解ったっていうの……。嘘ばっかり……わかるもんですか。ズットおしまいまで聞いてしまわなくちゃ、解りやしないわよ。妾があんたを殺したがってい
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