ら間もなく料理番の支那人が持って来てくれた魚汁《ウハー》の美味《おい》しかったこと……その支那人のチーっていうのに聞いてみたら、その時は妾が死んでからちょうど二日目だったそうよ。……妾の袋は、ルスキー島から二海里ばかりの沖へ投げ込まれると間もなく、軍艦と擦れちがったジャンクに拾われたので、その船頭の女房の介抱で息を吹き返したんですってさあ。十七番のナターシャさんも同じジャンクで拾われていたし、パン屋のソニーさんも鯨捕り船だったかに拾われて来たのを、白軍の巡邏船《じゅんらせん》が見付け出して警察に引き渡したんですって。だけど、みんな水をドッサリ飲んでいたんで駄目だったんですとさあ。そのほかの袋は十日ばかし経ってから、タッタ二個だけ、外海《そとうみ》の岸に流れ付いたそうよ。妾怖いから見に行かなかったけど……ホントに可哀そうでしようがないの……。
妾……この話をするのはあんたが初めてよ。いいえ……誰も知らないの……みんな死んでいるから……。
それあ浦塩《ここ》ではかなり評判になっているらしいのよ。……ええ……あんたが知らないのは無理もないわよ。あんたはまだ浦塩《ここ》に来ていなかったん
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