しちまやがった」
そうすると又、妾の頭を担いでいた男が、老人《としより》みたような咳をゴホンゴホンとしながら、こんな事を云ったの。
「十七人の娘の中《うち》で、ワーニャさんだけだんべ……天国へ行けるのはナア」
「アーメンか……ハハハハハ」
こんな事を云っているうちに、又二つばかりの階段を昇ると、ザーザーという波の音がして甲板へ出たらしく、袋の外から冷たい風がスースーと這入って来て、擦《す》り剥《む》けた臂《ひじ》の処が急にピリピリ痛み出したの。それと一緒に明るい太陽の光りが袋の目からキラキラとさし込んで来て、眼が眩《くら》むくらいマブシクなったので、妾は両手で顔をシッカリと押えていたようよ。そうしたら足を抱えていた男が、
「サア……天国へ来た……」
「ウフフフフ。ワーニャさんハイチャイだ。ちっとハア寒かんべえけれど」
「ソレ。ワン……ツー……スリイッ……」
と云ううちに、妾をゆすぶっていた六ツの手が一時《いちどき》に離れると、妾はフワリと宙に浮いたようになったの。
その時に妾は何かしら大きな声を出したようよ。……やっと夢から醒めたようにドキンとしてね……だけど、そう思う間もなく
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