古摺《てこず》ったところを見ると……」
「フフン、勿体《もったい》なくもオブラーコのワーニャさんだかんな」
「ウーム。十九だってえのに惜しいもんだナア……コンナに暴れちゃっちゃ、ヤングだって隠しとく訳に行くめえが……」
「……シーッ……来やがった来やがった……」
 って云ううちに、又一人、スパリスパリと煙草を吹かしながら、軽い、気取った足取りで階段を降りて来て、悠《ゆ》っくり悠っくりと妾の傍に近づいた者が居るの……。
 その足音を聞くと妾は気もちが一ペンにシャンとなっちゃったわ。飛び上りたい位嬉しくなって……ヤング……って叫ぼうとしたのよ……。
 だけど妾が起き上ろうとすると、手や足が、胸の処まで氷みたようになって、動かなくなっていることがわかったの。それと一緒に、声がピッタリと咽喉《のど》に閊《つか》えてしまって、名前を呼べる位ならまだしも、声を立てる事すら出来なくなっているじゃないの。何だかそんな夢でも見ているように胸の処が固《こわ》ばってしまってね。もしかすると、あんまり怖い眼に会い続けたので気が変になっていたのかも知れないけど……。
 そうするとヤングは、長い長い大きな溜め息を
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