に切なくなって来ると、黒ん坊はとうとう妾の両足を捉まえて、足首の処を両手でギューと握り締めちゃったの。
そん時に妾は、初めて、大きな声を振り絞ったわ。両手を顔に当てて力一パイ反《そ》りかえりながら、
「助けて助けて助けて。ヤングヤングヤングヤング」
ってね。ええ……それあ大きな声だったわよ。咽喉《のど》が破れる位|呶鳴《どな》ってやったんですもの。そうして両足を押えられたまま、起き上っては反《そ》りかえり反りかえりして、固い床板の上に頭をブッ付け始めたの。死んだ方がいいと思ってね。
そうしたら黒ん坊もその勢いに驚いて、諦らめる気になったんでしょう。
「……ウウウウ……そんなに死にてえのかナア……」
って喘《あえ》ぎ喘ぎ云いながら、妾の両足を掴んで、床の上をズルズルと、片隅に引っぱって行くと思ったら、そこに置いてあったらしい細い針金《はりがね》で、足首の処から先にグルグルグルグルと巻き立てて、胸の処まで袋ごしに締め付けてしまったの……。
その時の苦しさったら、それあ、とてもお話ししたって解かりやしないわよ。だってチョットでも太い息をするか、動くかすると、すぐに長い細い針金が刃物
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