ねえんだかんナ……ヤングはそこを睨んでいるんだよ」
「アハハハハ違《ちげ》えねえ。豪《えれ》えもんだなヤングって奴は……」
「アハハハハハハハ」
「イヒヒヒヒヒヒヒ」
 ……妾こんな話をきいているうちにハッキリと意味はわからないまま、もうスッカリ大丈夫なような気になって、グーグー睡ってしまったのよ。
 ええ……それあ大胆といえば大胆なようなもんよ。だけど、その時の妾はもう大胆にも何にも仕様《しよう》のない位ヘトヘトに疲れていたんですもの。最前からオブラーコで飲んだお酒の酔いと、今まで苦しいのを我慢していた疲労《つかれ》が一時《いちどき》に出ちゃって、いつ軍艦が出帆の笛を吹いたか知らないまんまに睡っていたわ。
 だけど、そうして眼が醒めてからの苦しくて情なかった事……軍艦の器械のゴットンゴットンという響きが身体《からだ》に伝わるたんびに、毛布ごしに床板に押しつけられている背中と、腰骨と、曲ったまんまの膝っ節《ぷし》とが、まるで火が付いたように痛むじゃないの。妾はもう……早くヤングが来てくれればいい。そうしたら水か何か一パイ飲ましてもらわなくちゃ、咽喉《のど》がかわいて死ぬかも知れない。そ
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