れちゃって寝てしまうから……ああ美味《おい》しい。妾もう一杯飲むわ。
 ……イイエ真剣なの。ホントウに真剣なのよ。そうして今夜こそイヨイヨ本気になってあんたを殺そうと思っているのよ。だから今夜は特別なのよ……だってあんたはちょうどこんな晩に、妾《わたし》を生命《いのち》がけの旅行に連れ出して行った男にソックリなんですもの……背《せ》の高さと色が違うだけで、真正面《まとも》から見ているとホントに兄弟かと思う位よ。だからコンナに惚れちゃったのよ。……イイエ……ちっともトンチンカンな話じゃないの。妾、そんなに酔ってやしないわよ。カニャックなんかイクラ飲んだって管なんか巻きやしないから……その訳はこうなのよ。まあお聞きなさいったら……トンチンカンでもいいからサア……。
 あんたはツイこの頃来たんだから知らないでしょうけども、この間、此浦塩《ここ》を引き上げて行った亜米利加《アメリカ》の軍艦ね。あの軍艦《ふね》の司令官の息子でヤングっていうのが、その男なのよ。……ええ……司令官と同じにヤングっていってね。名前だか苗字だかわからないけど、只そういっていたの……そうネエ。年は三十だって云っていたけど
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