ら妾はあんたを離れない。一緒に軍艦に乗って行く」
 ……って云って死ぬ程泣いて泣いて泣いて泣いて何と云っても聴かなかったの。しまいには首ッ玉に獅噛《しが》み付いて、片手で軍服のポケットをシッカリ掴んで離さなかったの……。
 ヤングは本当に困っていたようよ。軍服の肩の処に顔を当ててヒイヒイ泣きじゃくっている妾を膝の上に抱き上げたまま、暫らアくジッとしていたようよ。けれどもそのうちにフイッと何か思出《おもいだ》したように私の顔を押し離すと、私の眼をキット睨《にら》まえながら、今までと丸で違った低い声で、
「ワーニャさん。いい事がある」
 って云ったの。私はその時、何だかわからないままドキンとして泣き止みながらヤングの顔を見上げたら、ヤングは青白――イ、気味の悪い顔になって、私の眼をジ――イと覗き込みながらソロソロと口を利き出したのよ。前とおんなじ低い声でね……。
「ワーニャさん。いい事がある。貴女《あなた》がそれ程までに私の事を思ってくれるのなら、一つ思い切った事を遣《や》っつけてくれませんか。私が今から海岸の倉庫へ行って大きな麻の袋を取って来ますから、その中へ這入ってくれませんか。毛布を
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