のじゃ。不覚な免許取りが在ったものじゃが、つまるところ、そこから間違いの仇討《あだうち》が初まった訳じゃ……その第一の証拠には、その旗本が斬られたという五月の頃おい、拙者はまだこの福岡に在藩しておったからのう……ハハハ。とんと話にならん話じゃが……」
 耳を傾けていた佐五郎老人はここで突然にパッタリと膝を打った。晴れ晴れしく点頭《うなず》いた
「ああ。それで漸々《ようよう》真相《こと》が解かりましたわい。実は私も見付の在所で、お下りのお客様からそのお噂を承りまして聊《いささ》か奇妙に存じておりましたところで……と申しますのはほかでも御座いませぬ。この節のお江戸の市中《まち》は毎日毎日|斬捨《きりすて》ばかりで格別珍らしい事ではないと申しますのに、只今のお話だけが馬場先の返討《かえりうち》と申しまして、江戸市中の大層な評判……」
「ほほう。それ程の評判じゃったかのう」
「間違えば間違うもので御座いまする……何でもその友川という若いお武家が、返り討《うち》に会うた会うた。無念無念と云うて息を引取りましたそうで、その亡骸《なきがら》の紋所から友川様の御次男という事が判明《わか》りました。それ
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