らニコニコしながら道具を解いた。手酷しい稽古を附けてもらった平馬は息を切らして平伏した。これも大喜びで居残って一柳斎の晩酌のお相手をした。
一柳斎は上々の機嫌で胡麻塩《ごましお》の総髪を撫で上げた。お合いをした平馬も真赤になっていた。
「コレ。平馬殿……手が上がったのう」
「ハッ。どう仕りまして、暫くお稽古を離れますと、もう息が切れまして……ハヤ……」
「いやいや。確かに竹刀《しない》離れがして来たぞ。のう平馬殿……お手前はこの中《じゅう》、どこかで人を斬られはせんじゃったか。イヤサ、真剣の立会《であ》いをされたであろう」
平馬は無言のまま青くなった。恩師の前に出ると小児《こども》のようにビクビクする彼であった。
「ハハハ。図星であろう。間合いと呼吸がスックリ違うておるけにのう。隠いても詮ない事じゃ。その手柄話を聴かして下されい。ここまでの事じゃから差し置かずにのう」
いつの間にか両手を支《つか》えていた平馬は、やっと血色を取返して微笑した。叱られるのではない事がわかるとホッと安堵して盆《さかずき》を受けた。赤面しいしいポツポツと話出した。
ところが、そうした平馬の武骨な話しぶ
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