めに、取計《とりはか》らいました事で、決して余計な事を致したおぼえ[#「おぼえ」に傍点]は御座いません」
吾輩は恭《うやうや》しく夫人の前に頭を下げた。安島二郎氏はイヨイヨ椅子の中へ縮こまった。
「……多分……キット……主人がヨリ子に申し含めたので御座いましょう。ヨリ子は、それを信じて覚悟をきめたので御座いましょう。どんな事があっても安島家へ来てはいけない。奥さんに殺されるから……とか何とか……」
「……と……飛んでもない。そんな馬鹿な事を俺が云うか……そんな事……」
安島二郎氏が突然に歪《ゆが》んだ顔を上げた。中腰になって両手を伸ばした。両袖のカフス・ボタンからダイヤの光りがギラギラと迸《ほとばし》った。
夫人は冷然と尻目に見た。
「ヨリ子のような卑しい女が、何で自殺しましょう。貴方のお言葉を信ずればこそです。貴方に生涯を捧げる純な気持があればこそです。……貴方は安島一家の呪いの悪魔です。お兄様や、お姉様がお可哀そうです」
「コレッ。コレ……余計な事を……」
「申します。安島家のために、すべてを犠牲にして申します。わたくしはドウセ芸人上りの卑しい女です。けれども貴方のような血も
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