のが、手当の第一ですからね」
 そう云い云いドク・リン氏は新しい白襦袢《しろじゅばん》と、小浜の長襦袢をキチンと着せて、博多織の伊達巻を巻付けはじめた。
「アハハ。これあ自殺じゃありませんぜ」
「エッ。どうして……わかりますか」
 ドクトルが眼を丸くして振返った。
「カスカラ錠は下剤じゃないですか」
「そうです。緩下剤《かんげざい》です」
「ドレぐらい服《の》めば利きますか」
「そうですね。人に依りますが少い時で×粒ぐらい。多い人は×××粒ぐらい用いましょうな」
「カルモチンをソレ位|服《の》めば死にますか」
「死にませんなあ。ちょうどコレ位の睡り加減でしょうなあ。人にもよりますが」
「この女は近眼ですね」
「どうしてわかります」
「ここに眼鏡があります。近眼だもんですからカスカラとカルモチンを間違えて服《の》んだんですね。朝寝の人間には常習便秘が多いんですから……」
「……ハハア……」
 と医者が感心してタメ息を吐《つ》いた。気味わるそうな顔をして吾輩を見上げた。
「まだ、なかなか醒めないでしょうね」
 ドク・リン氏はうなずいた。……というよりも吾輩に圧倒されたように頭を下げた。

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