来の……イヤ、それ以上の大失敗だ。あんまりハッキリし過ぎているので頬返《ほおがえ》しが付かない。
間違いのソモソモは昨夜の午後四時頃の事だ。警察|種《だね》の記事を仕舞《しま》って帰りかけようとしている吾輩の処へ、眼をショボショボさせながら山羊髯編輯長がスリ寄って来た。
「君は写真の補筆が出来ますか」
断っておくがこの時の吾輩は最早《もはや》、正式に入社していて、社長以下小使に到るまで顔が通っている。行く処、可ならざるなき吾輩の活躍ぶりに皆、舌を捲いているところだった。だから、もしやと思って山羊髯がコンナ事を頼みに来たのだろう。吾輩がうなずいて見せると山羊髯がモウ一度、眼をショボショボさした。
「それではこれを一つ直してくれませんか。上海《シャンハイ》○○新聞の切抜ですが。タテ二段ぐらいに縮めます。向うの海岸の形が大切ですからね。ヒッヒッ」
受取ったのは極めて紙質の悪い新聞ザラに、目の荒いボヤケた六十線の銅版を、汚れたインキで印刷した切抜写真で、薄ボンヤリした雲みたような陸線のコチラ側に筏《いかだ》みたような船が五艘かかっている。どうやら水雷艇らしい恰好だ。上海○○新聞というのは
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