罪が、勿体なくも八幡宮のお膝下に住居《すまい》する仏惣兵衛の、正直の頭《こうべ》に宿ろう等《など》とは思われないが、しかし現場から感じた吾輩のインスピレーションの正体は、突飛《とっぴ》でも何でも、たしかにソレなんだから止むを得ない。つまるところ全くの初心者が偶然に演出した迷宮事件の傑作としか思えないのだから止むを得ない。
だから犯人はアトで自分の犯した罪の現場《げんじょう》の物凄さに仰天して狼狽して逃出したのではないか。だから犯人のアタリが全然付かないまま事件が迷宮に這入ってしまったのではないか。論より証拠……そう考えて来ると万事都合よく辻褄《つじつま》が合って来るではないか。あらゆる材料が必然的に絶対の迷宮に行詰って来るではないか。
……ナアンダイ……。
迷宮を破りに来て、迷宮を裏書きしていれあ世話はない。
……どうも驚いた。最初には目的無しの犯罪は無いと断定していた吾輩のアタマが、物の一時間と経たない中《うち》に今度は、正反対の断定を下している。そうした事実を物語る厳然たる事実を認めて面喰っている。……どうも驚いた……。
金箔《きんぱく》付の迷探偵が一人出来上った。八幡様
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